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    たぬき和尚

    • 2016.01.09 Saturday
    • 06:26
     今から、およそ二百三十年前(宝暦年間)の中川根町は、下長尾村、下泉村、地名村というように、 小さな村々に分かれていました。村には名主といって村長さんのような役目をする人がいました。 ここ地名村の名主さんは、人々の願いや考えをうまくまとめるので、 だれもがなかよく助け合って暮らしていました。 九月のある日、地名村の名主作之丞のところへ、笹間渡村の名主伝五郎の参事(使いのもの) が文函(手紙を入れて運ぶ細長い箱)をとどけて来ました。 手紙は、島田代官所代官・辻源五郎が、村々へ回覧板のように回したものでした。 「鎌倉建長寺の御使僧様が、その方の村へ行くから、そまつに扱ってはいけない。」 という通知でした。作之丞は、地名の参事に文函を下泉村に送らせて、大きなため息をつきました。 そのころのうわさが、いよいよ本物になってきたので、「一体全体どうなるもんだか。」 と心配になってきたのです。「そそうする(しっぱいする)と、代官所へふんずかまる。」 作之丞の頭の中には、村の衆の顔がうかびました。 村人たちは、日照り続きでところどころ枯れかかった畑の作物を眺めながら、 うわさ話に夢中になっていました。
    「和尚さんは、ぜったいに体を見せんだって。」
    「和尚さんは、古いたぬきのばけものだって。」
    「犬がいると怒るだって。」
     十一月の初めころ、伝五郎の参事が来ました。 「御使僧様が、昨夜わたしの家へお泊りになったので、きょう、午後二時ごろ、 こちら様へおいでになります。」と告げました。 村役人たちは、おろおろしながら、参事にいろいろ聞きました。 「うらあ、下人だで、よっかあわからんけえが、何でも和尚さんを拝むこたあ、 できんけっちょう。白い着物の伴僧二人と、かごかき二人で、五人来た。うらにゃあ、なんにもわからんで・・・・・。」 と、参事は、わからんのいってんばりでした。
     作之丞や役人たちは、一張羅の羽織羽織、袴で、おむかえのしたくに取りかかりました。 町人袴の上にカンロク羽織を着ていますが、木綿のお粗末なものです。 それでも二人の名主だけは、古い扇子を持って、小さなチョン髷を結っています。
    御使僧様のかごが、クヌギ峠をこえるころ、村役人たちは作之丞の家の前の往還(道路)に出て、 西日の中に立ちならびました。中の沢を渡り、太郎渕の水面にがごの行列が映るのを見て、 参事が走ってきました。一同は、着物のホコリをはらって心を引きしめました。 郷土屋敷(ごうどやしき)で、かごがいっぷく(少し休むこと)している時、伴僧の一人が来ました。 「御使僧様のお成りです。おかごでそのままお入りになるから、手落ちのないように。 犬はつないであるな、犬はいないな、くれぐれもご無礼にならんように。」 と告げました。
    「犬んこたあ、ふんとだ。」
    「犬んこたあ、ふんとだ。」
    と、 人々は目と目で通じ合いました。かごが栗下の畑を通ると、一同は、道ばたに土下座しました。 「ハッハー。」と、顔を地面にすりつけておむかえしました。 かごは、音もなく通りすぎて行きました。一同は、ビクビクしながら顔を上げました。 もう、かごは名主の作之丞の家の門の中に隠れて見えませんでした。 名主で主人の作之丞は、腰をかかめながら奥座敷の庭につながる木戸を開けて、 土下座しました。かごは、かついだまんま大きな池の横を通って、縁側に下ろされました。 伴僧が、かごのすだれをまくると、御使僧様ははい出るようにして、奥座敷へ入りました。 あっ、という間に伴僧が障子をたちました。かごかき人足は、御上で休みました。
     しばらくして伴僧が出て来て、「村役人一同に、お目通りのお許しが出た。こちらへ。」 と言いました。一同は、中出居のすみっこに、ひとかたまりになって控えました。 伴僧が「ただいまから、お出ましになられます。一同は平伏しておまちになるように。」 と言いました。一同が、畳に両手をついて、頭を下げると、「シッシィー。」と、声がかかり、 奥座敷の襖があきました。伴僧の声で「鎌倉建長寺の大僧正様にあられます。『一同の者 、本日は大儀であった。』とのおことばでございます。」 と言うといっしょに、スゥーと、襖をたつ音がしました。 一同が顔を上げた時には、御使僧様はもちろん、伴僧のだれもいませんでした。 それとなく村役人たちは、台所に寄って来ました。自分の思った通りに、正直に言とうわけにもいかず、 小さな声で、あーだ、こーだと話し合うばかりでした。
     ふたたび伴僧が来て、「このたび、建長寺の造営にあたって、地名村にも御寄進 (お金などを社寺に寄付する)をさせてやるから、喜んで受けるように。」 と言って、奉書を差し出しました。 それには『金十』と書いてあったので、一同は、びっくりしました。 十両というのは、そのころの地名村の上納金の約1か年分の金額だからです。 役人たちは、「こりゃー、大変だ。」「どーにも、困ったもんだ。」と、下を向くばかりでした。
     もう一人の名主庄兵衛がふるえる声で口を切りました。 「こんな事だたあ思っていたっけ。なんしょ十両じゃ、ちいっといかすぎて話にならん。 どうだい。もうちっとへらいてもらうように、たのんでみまいか。」 「そりゃあ、よいこんだ。」と、話が決まりました。 役人たちは顔を畳にすりつけて、「おそれながら、少々お願いの儀がございます。お供僧様にお目通り願います。」 すると、伴僧の一人が現れました。「当村は村も小さく、この日照りで農作物も不作であります。 その上、鹿に畑を荒らされ、村人は困っています。どうか、ご寄進の件を、軽くして下さいますよう、 お取つぎ願います。」と、必死になってお願いしました。 それを聞いた伴僧は、奥座敷へ引っ込みましたが、今度は別の伴僧が出てきて、 「どこの村でもありがたくお請けしたのに、当村だけ出来ないとは、もっての外だ。 まんいち大僧正様のごきげんにおさわりになると、どんなおとがめになるかわからない。 奉書通りにするが、村のためによろしかろう。」と、言うやいなや、 サッと奥の間に入ってしまいました。しかたなく、村役人は、やっとのことで集めた金十両を和紙に包んで、 泣く泣く寄進することにしました。
     「ありゃあ、何の音だ?」と、役人の一人が夜中に言い出しました。 ペチャペチャなんか食べるようでもあり、ガーガーいびきのようでもありました。 生まれて初めて聞く、きみょうな音です。あたりは真っ暗です。役人たちは見にいくこともできません。 バリバリ、バシャバシャという音に震えながら、朝の来るのをじっと待ちました。
     翌朝星の消えかかるころ、伴僧が「を。」と言うので差し出しました。 ほどなく、「これを大僧正様が、当家へお下げ(くださる)になります。」 と言って一幅の絵を持ってきました。それは、『柳に鳩』の絵でした。 作之丞は、「なんというきみょうな組み合わせの絵だ。」と首をかしげながら、 ありがたくいただきました。
     かわたれどき(夜明け時のまだうす暗い時分)に 御使僧様は、奥縁からかごに乗って、そのままつぎの村へ行ってしまいました。 たくさんいた泉水の大きな鯉は一ぴきも姿をみせなくなってしまいました。また、泉水のまわりには、 色づき始めたトノサマモミジの葉が一面に散らばっていました。 作之丞や村役人たちは、ただ朝もやの中で、ぼうぜんと 後ろ姿を見送っていました。まるでたぬきにでもだまされたように、ポカンと立ちつくしているだけでした。
     やがて、秋が過ぎて、小雪のちらつくころ、 「建長寺のお坊さんに化けた、古だぬきが、安倍川で、しっぺい太郎にかみ殺された。」 といううわさが流れてきました。 名主作之丞の家では、代々この絵を大事にして、今でも保管しているそうです。
    (中川根のむかし話より・原文のまま)


    この写真は、たぬき和尚が通ってきたであろう場所です。右奥には本文中に出てくる「太郎淵」が見えます。大井川沿いには旧道があり、たぬき和尚一行は、この道を通って地名地区に入ったと思われます。地名地区に残されている「見返し峠」の民話も、この上の方の峠から「オロチ」が襲ってくる話となっています。

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